会長挨拶

日本カツオ学会会長 川島秀一

 日本カツオ学会は2011年1月に設立されましたが、2017年の7月から初代会長の愛媛大学の若林良和先生から会長を引き継ぎました、東北大学の川島です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。就任にあたりまして、ご挨拶を申し上げ、本学会の目標や活動方針について述べさせていただきます。

 基本的には、前会長の方針を受け継ぎたいと思っておりますが、昨今、カツオをめぐる状況は逼迫しています。まず、カツオ資源の危機が叫ばれ、日本へ北上するカツオの動向が不安定であり、世界的にも懸念されております。この傾向が続きますと、漁業者や漁港に大きな影響を与え、地域経済は打撃を受けます。このことに関しましては、当初からこの学会で、カツオの資源問題を前面に取り上げ、一定の成果を上げてきました。

 一方で、欧米の健康ブームや新興国の経済発展により、魚食が世界規模で進むなか、日本では若年層を中心にすべての世代で魚離れが進行し、カツオや鰹節の消費は低迷しています。そして、カツオ漁業やカツオ加工業などの、カツオ産業が盛んな地域では、課題が山積しています。こうした現状から、カツオ産業の地域を単位として、今一度、カツオの価値を改めて問い直そうと、自治体や研究者らの呼びかけで設立されたのが、本学会であります。

 本学会の設立主旨・目的は「設立趣意書」や「定款」第3条にあるように、カツオに関心を持つ様々な分野の人々が集い、情報交換や調査研究などカツオに関する多面的な事業を推進し、カツオの価値を見直して相互の交流・連携をもとに、協働でカツオとの「上手な付き合い方」を探ることにあります。
 そして、本学会の基本方針として、1.持続可能性の高い学会、2.価値の多様性を問い直す学会、3.小規模ながらも、存在感や影響力のある学会を目指すという提案がされました。そのための具体的な行動指針は、「地域・領域・立場・学問など様々なレベルを超えて、カツオの価値を問い直すために、つむぎ合いましょう!」というキャッチフレーズに基づき、1.地域性(地域のつながりによる連帯的な行動)、2.広範性(領域のつながりによるオープンな取り組みの展開)、3.学際性(学問のつながりによる総合的な検討)、4.システム性(流れのつながりによる生産から消費までのシステムの構築)の4点です。
 これらの点で、皆さんが「つながる」ことは社会的に大きな意味があります。地域を基点に、カツオに関する多様な領域について、異なった分野や立場の人たちがカツオの価値を問い直すことで、カツオ関連業界の関係者はもとより、広く一般の消費者の皆さんにその魅力を伝え、カツオのファンづくりに向けた取り組みもできると考えます。様々な機会を通じてカツオや鰹節に対する理解が深まり、それを消費拡大へつながる端緒にもしたいと思います。今こそ、カツオに関する資源的・経済的・社会的・文化的な価値を問い直すべき絶好の機会であり、地域資源としてのカツオ、食品としてのカツオを総合的な視点で検討して、さまざまな局面で社会に発信していくことが重要です。

 ともすれば、文化というものを東京から地方へ、あるいは大阪から地方へと、中央集権的に捉えがちでありますが、カツオ漁を通した文化は、太平洋の沿岸にそった、地方と地方との海の道を通した交流の文化として、過去から脈々と現在に至るまで受け継がれているといっても過言ではありません。それは単なる漁法の伝播に留まらず、信仰や食文化、婚姻関係に至るまで深く関わり続けております。各地のカツオ船の漁業者や、彼らを受け入れた各地の船宿や問屋を含めた交流自体が、まぎれもなく「カツオ文化」だと断定できるのではないでしょうか。このような交流自体を意識化した事業を積み重ねていくことが、今後共にそれぞれの地域を元気にしていくことになるだろうと信じております。

 カツオの価値再生について、会員の皆さまと一緒に考えて実践を試みたいと存じます。本学会の運営に関して、会員各位の皆さまの絶大なるご支援とご協力を賜りますことを祈念して、就任のご挨拶とさせていただきます。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

日本カツオ学会会長 川島秀一